essay

普通になれない私たち。でも普通になりたい私たち。

普通ってなんだろう。

普通にならなくちゃと自分に厳しかった過去の私。
でも
普通にはなりたくないと苦しかったのも私。

特に日本人は「普通」という言葉に縛られていると思う。
結婚だって、するしないも、自分の気持ちよりも
「普通はどうだろう?」から考えがちかもしれない。

普通ってなんだろう?
私が考えてきたことをお話ししたいと思います。

目次

私は普通だもん!!

「私は普通だもん!」
その女性は、泣きながら訴えて来た。
彼女が以前の彼に向かって言いたかった言葉。
ドラマセラピーのセッションの中で出て来た一言だった。
もっと探って行くと、それは彼女の子供時代の記憶ともリンクしていた。
彼女はますます泣きじゃくりながら、「私は普通だもん。普通だもん」と何度も言った。
自分をいじめて来た同級生たちに。
彼女をふった彼に向けて。

泣いている彼女は、本当に普通の女の子でしかなかった。
でも、彼女は、「普通じゃない」という理由で、排除されてきたのだ。

普通だもん。

その言葉を聞きながら、私は、彼女がどれほど「普通じゃなくちゃいけない」という思いの中で苦しんだんだろうと考えていた。

帰国子女で、英語がペラペラで、背が高くて、今は外資系の会社でバリバリ働いているかっこいいキャリアウーマンの彼女。

でも、違う文化に触れて豊かな子供時代を過ごしたことは、
日本の子供の社会ではあまりよく受け入れてもらえなかったのだろう。

背が高いことがコンプレックスで、体を縮めるようにしているから、余計に目立つ。

背が低いことがコンプレックスで、20歳の頃は、ばかばかしいほど厚底の靴を履いて
、何度も転んだ経験のあるかわいそうなチビの私には、羨ましすぎる身長なのに。

普通になろうとすることは、苦しいはず

私たちは、本当に「普通」という考えに縛られている。
「普通の人」になろうとすることで、苦しんでいる人は意外に多い。

普通の人はどう考えるのか、普通はどうすべきなのか。

普通って一体なんなんだ。
平均的なこと?
多数決で一番に選ばれること?
多くの人がすること?

私たちは普通から外れれることをどうやらとても恐れるようだけれど、
かと言って、「あなたって普通の人ね」と言われたら、
「嬉しい!普通の人だと認めてもらえた!」なんて喜ばないはずだよね。

それは褒め言葉には聞こえないと思う。
それでも、みんなと一緒でなくちゃいけない、と考える人はとても多い。でも、普通って、本当に一体何なんだろう?

普通じゃない私は価値がないと思い込んでいた頃

私が「普通」であることをやめたのは、遠い昔、OLをしていた20代半ばの頃。

当時の私は、会社の仕事が苦痛でしかなくなっていた。
クールビズなんてなかった時代だったから、夏場の職場のクーラーは、スーツを着ている男性社員に合わせて、23度の設定で、
薄い夏用の制服を着ていた私は一気に冷房病になり、自律神経失調症になり、生理が止まり、原因不明の足の痛みに苦しんでいた。
しょっちゅう風邪をひくので、会社も有給を使い果たすほど休んだ。

もう絶対に会社を辞めようと考えていた私だけれど、「普通の会社員」になれない自分をずっと責めてもいた。

Yさんという、大人しくて、いわゆる「普通」な感じで、でも会社ではちゃんと活躍できている女性社員と比べて、
私はなんて役立たずなんだろう、と何度も考えた。

私なんて、いなくてもいい存在だ。

もともととってもネガティブ思考な私だったので、自分には夢はあっても、それが叶えられるはずはないと思っていた。

でも、割り切って仕事をしながら、何となく満足できなくても、やり過ごすこともできなかった。

世間がミレニアムという言葉で沸いていた2000年の地方の町は、まだまだ男性優位だった。

お給料も「女の子だから、最初に提示した金額ではありません」と、
入社してから本当の給料を告げられたことに対して、私は怒りを持ったし、
女の子は男性社員にお茶を入れたり、女の子は男性社員よりも早く会社に来て、朝の掃除をするとか、
そういうことに対して腹をたてるような人だった。

そんなんじゃなくて、それに何にも疑問を持たずに、普通に素直に仕事ができる「普通の女の子」だったら、
私はもっと存在する価値があったかもしれない。
でも残念ながら、私はそういう生き方はしたくないと思ってしまった。

普通とはどういうことをいうのか?私が出した結論!

両足の痛みは寝ても覚めても続き、何をしていても楽にならず、
会社を辞めようとは思っていたけれど、私の中では、「正社員になれ」と言っていた両親の声が鳴り響いていた。

世の中の人は、みんなこんなことに耐えながら仕事しているんだろうか?

それとも、私が弱すぎて、こんな病気になってしまったのか?

そんなことを考えているうちに、私は一つの結論に達した。

 

「私が普通なんだ。みんなおかしいんだ。
みんな異常だから、この現実を何の苦もなくやってのけられるんだ。

私は普通だから、この環境でこういう症状が出たんだ」

 

自分が社会不適合者であるかもしれないことは棚に置き、
みんなを「異常者」としてしまう、ふてぶてしく、声に出してはいけない結論だけど、
私はこの考えを持つことで、自分を楽にしてあげられた。

私たちはいつだって、異常と正常の間にいて、
どっちにでも足を踏み入れることができる。
私にとって、「自分がやりたいと思うことがあっても、それを押し殺して生きること」は異常なことで、
それを我慢せずに生きることが正常なことだった。

私は正常すぎて、この「異常な社会」についていけず、病気になった、というのが自分勝手な私の結論。
だから、病気を治すためには、異常な社会から出て行かなくちゃいけなかった。

その背中を押してくれたのは、バーナード・ショーのこの言葉だった。

「自由とは責任を意味する。だから大抵の人間は、自由を恐れる」

自由という責任をとって、「正常」になると決める

大抵の人間、つまり「普通の人」は責任を取りたくないから、自由、つまり正常になることを諦めるんだ。

自由を望まないなんて、大抵の人は、正常じゃないんだな。

私は自由になりたいから、じゃあ責任とればいいんだね。
正社員を辞めても、その責任は私。
バイトでも何でも、きっと何とかやっていける。
じゃあ、自由になろう!
普通じゃない自分を認めよう!

経済的な安定は、必ずしも精神的安定にはつながらない。
でも、精神的安定は、必ず経済的安定に結びついていくはずだ。

その覚悟ができたため、私は正社員を辞めて、「正常」になった。

以来一度も正社員になっていない。社会保障もボーナスもバイバイ。

ボーナスを諦めるのは、なかなか勇気のいることだと思う。
ボーナスを諦めるなんて、異常だわ!って思われちゃうかな。

とにかく、こうやって普通であることをやめられて、私はアメリカに行き、ドラマセラピスト になった。

時はさらに流れ、私は友達からも、半ば呆れられながら35歳でポーランドまで行くことにした。
ポーランドでは思っていた以上に仕事がなく、そのゆったりとした時間を、多少罪悪感を持ちながら楽しみ始めた。

私でさえも、平日の昼間に、ビールなんて飲んでいていいんだろうか、と自分を責めていたのだ。
でも、そんなこと考えるなんて、ビールと太陽に失礼なので、それもやめることにした。

また日本に戻ったらもっと仕事をするんだし、今まで休みがほとんどないくらい仕事していて疲れ果てていたんだし、
ポーランドでは仕事が少なくなっただけで、研究のために来ているんだ。
研究なんて言葉を使ってるけど、私にとってはほぼ趣味の領域でもあるから、
遊んでいる気がしちゃうけど、これだって仕事の一部なんだ。
なんて贅沢だろう!普通をやめたら、こんなに贅沢が味わえるんだなあ。
ポーランド生活は、私にとって毎日が幸せだった。
(とはいえ、私はずっとシングルで悩んだり寂しかったりもしたんだけどね。誰だって悩みは尽きないね。)

普通になれないのが、普通のこと。自分にとっての「普通」を探せばいい。

クライエントさんたちの中には、この「普通になれない種」を持っている人がたくさんいるんだと思う。

「みんなと一緒であること」や「普通であること」を意識しすぎて、
そしてとても大変な思いをしながら暮らさなくてはいけないのだとしたら、
多分、あなたは普通になれない人。

癒しとは、その人がナチュラルな状態に戻ることだと私は信じている。
つまり、自分にとって「自然の状態」になるということ。
自然な状態にあるとき、誰もが、「普通にならなくちゃ」なんて意識しない。

会社を辞めるとき、Yさんがボソッと言った。

「会社辞めてまでして、やりたいことがあるんだね。変わってるね」

そうか、Yさんがいる世界では、私のほうが、異常だったんだ。
会社という世界では、私は異常だったけれど、それぞれ自分にとっての、「正常」と「異常」もあるのかもしれない。
自分らしくなることで、それが私にとっての自然の状態、つまり「普通の状態」になれる。

 

「普通にならなくちゃいけない」と考えている時点で、その世界は、あなたにとっての普通じゃないんだから、
自分にとっての「普通の世界」、ナチュラルでいられる場所を見つけたらいいんじゃないかな。

 

今日もお読みくださりありがとうございました。

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