Story

好きだけど結婚できない、不倫恋愛の乗り越え方 2 カウンセラーなら私を助けてよ

ホワイトデーに自殺すると言い切ったミナコ。
彼女の本当の気持ちは?
頑なな彼女との会話が続きます。
1話目はこちらです。
好きだけど結婚できない、不倫恋愛の乗り越え方1   ホワイトデーの日に自殺します 

目次

私の言うことを聞いて。そんな思いの裏にあるのは

ミナコとの会話は、思うようには進まなかった。

これほどまでに自分が苦しいのだから、彼は私の元に戻るべきだ。
苦しんでいる人を、放っておくなんて信じられない。
友達だって、反対するのではなく、自分に協力すべきだ。
どんなことをしても私を救うべきだ・・・。

彼女の彼への執着には、凄まじいものがあった。
彼女の話を止めることもできない。
彼女から、どうしたらいいのか分からずに、彷徨っている怒りを感じていた。

そのうちミナコは、私に
「彼に電話をかけて、自分がどれほど苦しんでいるのかを伝え、自分のところに戻ってくるように説得してほしい」と、
頼むようになった。

私は、それをすることの理由や、メリット、デメリットについて考えるように促した。
すると彼女は、私が仕事としてすべきことをしていない、
協力すると約束したのに何故しないのかと、私に対する怒りを見せるようになった。
少なくとも私が、行き場のなかった彼女の怒りが向かう先になり、私はそれを受け止めていると、確かに感じた。

「あなたが、どうしても電話してほしいというのなら、電話をかけることはできる。
でも、何度か彼に、元に戻れなかったら死ぬって、メール書いているんだよね?
それで、カウンセラーが、ミナコさんとよりを戻してほしいなんて電話をしてきたら、彼はどう思うかしら?
あなたの状態は、カウンセラーが介入してくるほどなんだって思って、余計に距離を置きたくなるかもしれないよ」

彼女が私に望むことは、「彼との関係を修復する」ことではなく、
もしかしたら、「自分の言う通りに動いてほしい」、
少なくとも「私の言葉を真摯に受け止めてほしい」という願いかもしれないと、私は思った。

「確かに、そうかもしれないですね」

幾度もの面談を通じて、彼女は私の話す言葉を、少しずつ聞き入れるようになっていった。

死にたい人を助けるのは当たり前でしょう?

あるときミナコは、会社での人間関係もうまくいっていないと、珍しく彼以外の会話をしたことがあった。

「でも、彼との関係さえ元に戻れば、すべてうまくいくんです」

彼女は慌てたように、こう加えて断言した。

彼との関係がうまくいかないから、すべてがうまくいかない。
だから彼が自分の元に戻るべきなのだ、と彼女は信じたいのだ。

「会社の人間関係がうまくいかないのも、彼がいないせいなんだ。
彼がいれば、会社の関係もうまくいくはず・・・ってことだね。
私は、会社の人たちとうまく行くかどうかは、彼とは全く関係ないことだと思うんだけどな。
でも仮に、会社の人間関係がうまく行ってしまったら、どうなるの?
彼がいなくても、うまく行くことがあるってことにならない?
そう考えたら、会社がうまくいけば、彼は関係ないってことが分かる。
そしたら、会社の関係が、うまく行っちゃったら困るよね」

一瞬の間があり、ミナコは何かを考えたようだった。
今までの会話から、何かが変化したのではないかと私は期待したが、彼女はすぐに、いつもの会話に戻ってしまった。

「でも会社の関係は、うまく行っていません。彼がいないからです」

 

ミナコの髪は少し伸び、そろそろコートが欲しくなる季節になっていた。
まだ時間はあるとは思いながら、あまりにも頑に変わらないミナコとの会話が、私には、少し面倒に思えてしまうときもあった。
それでも同時に、彼女には私を惹きつけてしまう何かがあった。

 

ミナコは決して、人間関係がうまくいっていないわけではなかった。
いい友人もいるし、テニス教室に通ったりと、見た目には順調な生活をしていた。
また友人たちにも、彼の態度はひどかったと同情されていたし、中には彼女の復活愛を応援してくれる人だっていた。

「友達に、迷惑をかけていると知っているし、みんなには、感謝しているんです」

折に触れて、ミナコはそう語ることさえあった。

そう言いながら、彼との関係がうまく行かないと嘆くとき、
「でも、彼さえいれば、私、他は何にもいらないんです。彼さえいればそれでいいんです。友達なんて、どうでもいいんです」
とも、はっきりと語る。

「矛盾してるね。あなたには、寂しくないように、クリスマスを一緒にすごそうよって言ってくれる友達がいて、
あなたを心配してくれている。
あなたも、彼女たちの存在が必要だって認めている。なのに、どうでもいいなんて、どうして言えるの?」

イライラが強い時の彼女に、こういう会話をしても無駄だということは、分かっている。
でもどうしても、彼女に気づいてほしかった。彼こそ、彼女にとって、もはやどうだっていい存在なのだ。
彼女には、彼女を大切に思ってくれる、素敵な人たちがいっぱいいる。

「分かっています。彼女たちがよくしてくれているのは・・・。
でも、私のことを、本当に大切に思うのなら、もっとできることがあるんですよ!
私は、死ぬって言っているんですよ。
そこまで言っているのに、何故、私を助けようとしてくれないの!それをしてくれないから、腹が立つんです!
彼は何故、私が死ぬかもしれないと言っているのに、平気な顔をしているんですか?」

ミナコの声は必死だった。
彼女自身が、どうしようもない思いでいっぱいなのだ。
どうやって自分を救ってあげたらいいのか、分からないのだ。
せめてその気持ちだけでも、和らげる方法はないのだろうか。

「私、こんなにも苦しんでいるあなたを目の前にして、どう助ければいいのか、分からない。
本当にごめんなさい。きっとお友達も、同じように感じているんじゃないかな。
もしかしたら、あなた自身も、どうしたらいいのか、わからないのではないかしら」

私の言葉はほとんど聞かず、ミナコは勢いを増して言った。

「彼を説得してほしいんです。人が死ぬって言っているんですよ?
それならその気持ちに答えるべきだって、思いませんか?
死のうとしている人を、何が何でも助ける義務が、彼にも友達にも、先生にだってあるんです」

ほんの少し見えてきたこと

「死ぬ」という言葉が、ある種脅迫めいた彼女の最後の切り札なのは明らかだが、
私たちは、人の生死の責任なんて持ちたくない。
特に自立した大人に対して、そんな義務、持つ必要なんかない。彼女の生死は、彼女の責任だ。

「あなたの会社の後輩が、最近あなたにつきまとっていて困っているって、この間言っていたじゃない?
その人が同じことを言ったら、どうするの?
あなたは、彼のために、彼が死なないようにするために、彼の気持ちに答えられるの?」

不意を討たれたように、ミナコは一瞬表情をなくし、しばらく黙った。

私は、ミナコと何度も交わしてきた、同じ内容の会話の中で、彼女の気持ちをちゃんと受け止めていると意識できていた。
それは彼女にもちゃんと伝わっていたはずだ。
だから彼女は、私のこういう質問に対し、素直に考えられるようになったのだと思う。

「それは、ちょっと重いですね・・・」

そう言って、ミナコはまたしばらく黙った。

私は、その沈黙を、焦らずにじっと見守った。
三分程度だったかもしれない。
それは時間が止まったように長くも思えたけれど、居心地の悪い沈黙ではなかった。

いつものペースを失ってしまったからか、活気づいた怒りが急に消え、ミナコは子供のように無力に見えた。
パリッとアイロンをかけたシャツとグレーのパンツスーツが、不思議と彼女の表情を、ますます子供のようにしていた。

「でも、それとは話が違います。やっぱり、彼には私に対する責任がある。
友達だって。それを分かってほしい。それをせずに、別れて正解なんて言うから・・・。
それに・・・。それに、みんなの言うこと聞いてしまったら、
ほら、結局戻れなかったでしょなんて、言ってくるに決まってる・・・」

ミナコの声は震えていた。

そうか。そうだったんだ。
私はミナコの心に、何か違う問題が見えた気がした。

 

次に続きます。

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