好きだけど結婚できない、不倫恋愛の乗り越え方。4  ほらやっぱりね

ミナコから自殺をしたいと思う理由を取り除こうとし始めた私。
自分が不倫をしていたことを、誰よりも責めていたミナコ。
ミナコとの会話は、もっと個人的なものにもなっていった。

これまでのお話は
第一話 ホワイトデーの日に自殺します
第二話 カウンセラーなら私を助けてよ
第三話 一番許せないのは、私

不倫は悪いこと?

年末から年始にかけて実家に戻るので、しばらくカウンセリングには来られない、次にいつ来られるか分からない、
とミナコは言っていたが、
一月の仕事始めの日から、電話が鳴るたびに、メールをチェックするたびに、
私はミナコからの連絡はないかと気にしていた。その間私は、最後に彼女に言った、自分の言葉思い出してばかりだった。

あれでよかったのだろうか・・・。

 

あのとき、涙はもうこれ以上出ないという位まで泣き尽くしたのか、
丸めたティッシュを手の中で転がしながら、ミナコはぼそぼそと語るように、私に聞いてきた。

「先生は、不倫を悪いことだと思いますか?正直に答えてください」

彼女は、カウンセラーではなく、私個人の、正直な答えを求めていた。

「一般的な意見で言えば、正しくはないんだと思う。
多分、私にはできないことだと思う。私が、既婚者の男性を好きになったことがないだけなのかもしれないけれど。
でもね、不倫でも、本当に愛し合っている人たちもいると思うの。
社会的には良くないことだったとしても、愛情そのものが、悪いわけではないと思う。
誰かを愛することは、素晴らしいことだと思う。
だから、あなたが、彼を愛したこと、それ自体は悪いことではないし、素敵なことだと思う。
ただ、一つ加えてもいいのなら、好きだから一緒にいたいというのは、結局のところ、自分のためでしょう?
自分の幸せのために、一緒にいたいってこと。自分の思いを伝えたいのも、自分のため。
相手を本当に愛するのなら、それが本物の、真実の愛だと言うのなら、自分が一緒にいられなかったとしても、
相手に分かってもらえなかったとしても、それでも相手の幸せを願うことを、愛って言うんじゃないかなって、
そういう風にも思う。
もちろん、多くの人間は、そこまで強い愛を持てるほど、大きな存在ではないかもしれないけれど・・・」

「私は誰よりも彼を愛している」と言うミナコに対し、少し挑戦的な意見だったかもしれない。
そして「あなたの愛は本物」、それなら「本物の愛ならこうあるべき」という、
理想的な意見を押し付けてしまう形になってしまったかもしれない。だから、カウンセラーとしては間違っていたかもしれない。

私は、ミナコの心の痛みを、そばで目撃したからこそ、彼女の心の中にある、母親が子供に持つような、
無条件の愛情の存在を信じたいのだと、自分に言い聞かせていた。
そしてその存在が、その暖かいまなざしを、彼女自身にも向けてほしいのだ、と。

あなたの思う通りには、やっぱりできないわ

年が明けて、二週間ほどして、ミナコがやってきた。
「あれから調子はどうだった?」という、私のいつもの最初の質問に対して、
あと一ヶ月でバレンタインデーなので、彼に何をプレゼントしようかと考えているところだと、
今までと全く変わらない様子で、ミナコは答えた。
部屋のドアをあけたとき、彼女が、何かを決意したような、張りつめた表情に見えたのは、
十二月の最後のセッションで、何かが変わったからではなく、やはり「決着」に向かい始めたからなのだろうか。

「先生の言う通りだと思いました。ずっと考えていたんです。彼を愛するのなら、彼の幸せを祈るべきだろうって。
でもそれなら、彼にだってそうしてほしいんです。私の幸せを、ちゃんと願ってほしい」

ありきたりだろうか。きれいなまとめ方にしすぎだろうか。でもやはり、言わずにはいられなかった。

「彼だって、あなたの幸せを願っているはずだよ。一度は愛し合った相手なのだから。
そして、一緒にいられなくなったこと、彼があなたの願いを叶えられなかったことを、きっと申し訳なく思っていると思う」

「二年もつきあっていたのだから」という言葉を使おうとしたけれど、「愛し合った相手なのだから」という言い方にした。
私はなんとなく、「つきあう」という言葉が好きではない。特にミナコの苦しいまでの思いは、「愛」という言葉で表現したかった。
それが、彼女の不倫を「正当化」することになるのかどうかは分からないけれど、
それでもミナコは、「私に認められた」と感じたのだと思う。ミナコは「そう言うと思ってました」と、口元に笑みを浮かべた。

「四月に、また予約します」

ミナコが突然言った。それは、自殺はしない、これからも生きると約束する言葉にほかならなかった。
だが正直、これからバレンタインデーもホワイトデーも、彼女と向き合うつもりでいた私には、拍子抜けする言葉だった。

でも同時に、自殺する理由がなくなってしまったミナコが、
「ほら、やっぱりね」と、私に言われないための、「子供の部分の」彼女の抵抗なのかもしれないな、と私は心の中で微笑んだ。

自分を心の中の裁判にかけてしまうくらい責めてしまったら

その後二ヶ月あまり、窓から見える茶色の木々が、緑の絵の具を、ちょんちょんと筆で足していくように、着飾っていくのを見ながら、
ミナコのことをよく思い出していた。
どんな思いでバレンタインデーを迎えたのだろうか、彼に会いにいったのだろうか、また自分を責めてはいないだろうか・・・。

 

四月になり、約束通りミナコは来た。

最初に会ったときのように、髪はさっぱりと短く切り、大きめの派手なハート型のピアスが耳元に揺れている。
そして、黒く染め直された髪が、彼女の表情を明るくしていた。

特に何も言い出さなかったミナコに対し、私は、彼とは会ったのか、バレンタインはどうだったのかと、聞くべきかどうか考えた。
そして、何も聞かないことにした。
彼女が話したいことだけを聞けばいい。
どんなことがあっても、自分を許し、受け入れる大きな存在を、彼女の中に育ててほしいのなら、
私自身が、今日ここに来てくれた彼女を、そのまま受け入れることが、きっと重要なのだ。

「私、多分、まだ彼が好きです。でも、この気持ちは、心の隅においておきます。
彼に、好きだとかどうだとか言ったとしても、彼には彼の人生がある。
だから、私も私の人生を生きていきます。
この感情がまだ続いて、心の中にあるのなら、また来年のバレンタインに考えます。
でも、なんとなく、大丈夫な気がしますけれど」

きっと彼女は、もう彼を乗り越え始めている。
これも、彼女の魅力の一つかもしれない。
頑なで、なんてかわいらしい人なんだろう。
誰にも「ほら、やっぱりね」とは言わせないミナコの頑固さを、私は母親のような思いで見つめていた。
いつかそう遠くない未来に、夏の日差しの中、アイスでも食べながら、
「ほら、やっぱりね」と、冗談を言い合う私たちの姿を空想しながら。

 

私たちは、何か失敗したり、自分に非があると感じると、自分を厳しい裁判に追い込んでしまう。
自分のことを責め続けると、周りにも同じように見られているのではないかと勘違いしてしまうものだ。
そしていつの間にか、周りに責められているから、自分は許されないのだと思うようになってしまう。

でもこの裁判は、私たちが自分で作り上げてしまったもの。
しかもそこには、被告を弁護してくれる人もいない。
自分を裁判にかけてしまった人は、すでに十分に反省ができている。だからこそ、救いの手を差し伸べてあげなければいけない。

自分を許すことは、本当はそれほど難しいことではないのかもしれない。
心の奥で、自分を責めている声の影に隠れて、苦しんでいるもう一人の自分の姿を見つけることさえできれば。

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