Story

好きだけど結婚できない、不倫恋愛の乗り越え方 1 ホワイトデーの日に自殺します

結婚を約束してくれた彼。
それを待っていたミナコ。
でも、彼は彼女との関係を一方的に終わらせてしまった。
そんなミナコとのカウンセリングストーリーです。

目次

私、ホワイトデーの日に自殺します

「私、ホワイトデーに自殺します」

薄茶色の髪を短く切り、すっきりとした色白の首筋には、うっすらと血管の筋が見える。
両耳に揺れる大きな金色のハート型のピアスが、なんとなく重たそうだ。

部屋の温度が少し高くなったのだろうか、エアコンの音が急に大きくなった。
窓からは、暑い太陽がブラインドに遮られながらも、強く細い矢のように入り込む。遠くから蝉の鳴き声が聞こえる。

蒸し暑い八月に聞く、ホワイトデーという言葉は、なんだか知らない外国語の単語みたいで、
その意味が脳に伝わるまでに時間がかかった。
言葉を消化するまでに、私は彼女の髪型、ピアス、華奢な体系、そしてそれを覆うニット製の水色のノースリーブのトップまで観察してしまっていた。

「ごめんなさい。どういう意味かしら?ホワイトデーに、自殺するって?」

ミナコが、少し挑発的とも言えるような笑みを、一瞬浮かべたような感じがした。
カウンセラーなんだから、私が自殺しないためになんとかしてよ、と言わんばかりの脅しのようだ。

「そうです。バレンタインデーに、彼にもう一度告白して、彼の答えをホワイトデーまで待つつもりです。その結果次第では、私は自殺するつもりです」

先ほどまでの清々しいとも言える彼女の表情は、いつのまにか悲しみに満ちていて、私は彼女の気持ちに追いつけていない自分を感じた。

夏の日差しと、彼女のすっきりとした服装と、伸びた背筋のせいで、私は彼女の暗い気持ちを見落としていたのだろうか。

彼との関係を元に戻して!

38歳のミナコは、飲み会で知り合った男性と、三ヶ月前まで不倫の関係にあった。
1歳年上の彼は、妻との関係は冷めている、離婚してミナコと結婚すると、口癖のように言っていたという。

しかしほとんどの不倫カップルがそうであるように、彼は離婚をせず、彼らの関係は終わった。
終わったはずだった、少なくとも彼にとっては。
しかし、ミナコは終わらせるつもりはなかった。そのため、彼との関係を元に戻すことが、彼女の願いだった。

二年もつきあったのに、これはひどすぎると、彼女の口調が今度はイライラしたものに変化していた。
イギリスの天気みたいに、彼女の表情はくるくる変わる。でもイライラしたときが、彼女を最も活気づけているように見えた。

ミナコがカウンセリングに求めることは一つ。
彼との復活愛を可能にすること。

当然、私は人の心を変えられるわけではない。
せっかく不倫恋愛を終わらせられたのだから、今度はもっと実りのある恋愛すればいいのに。
もったいないなあ、こんなに素敵なのに。

私の心の浅い部分は、普通にこんな風に思っていた。
大体この男が悪い、既婚者が合コンに来るなんて。その相手の男性に対する批判的な気持ちさえ芽生えていた。

当然そんなこと口に出すわけではなく、同時にもっと深いところで、彼女がなぜそこまで彼を思うのかを、私は考えていた。

誰かを強く愛し、その関係がうまくいかなくなってしまったら、誰だってとても辛いし、どうにかして、その相手をもう一度振り向かせたいと思うものだ。
相手を諦めるまでに時間もかかるし、その間泣いたり喚いたり、落ち込んだり、頑張ってみたりと、感情の嵐につきあわされるのだ。

でも彼を諦めるつもりはないミナコは、苦しいけれど必ず癒える悲しみの嵐を選ばず、彼女には生きるか死ぬか、という選択しかない。

どう言ったらいいのだろう。「復活愛を実現させること」は、約束できないし、それが彼女にとっての幸せになるとは思えない。
彼にとっても、「あなたがいなければ自殺する」と言ってくる人と、この先の人生を共にするなんて、恐ろしすぎるだろう。

「あなたが、彼のことを、今もとても好きなのだということは、よくわかりました。正直言って、二人の関係を修復できるかどうかは分かりません。私にできることは、あなたの気持ちを整理させながら、あなたの幸せを一緒に目指すことだと思います」

彼女に幸せになってほしい。本当にそう思いながら私は言った。
彼との復活愛だけを望みに生きている。
彼女の生死が彼の一言で決まるなんて、悲しすぎる。ミナコがとても痛々しく見えた。

しかし彼女は、私の答えを、おそらくこう解釈しただろう。

「私の幸せを目指すというのなら、復活愛に協力してくれるはずだ」

 

その後残りの三十分くらいを、彼女は、どれほどまでに彼とよりを戻したいのかを強く語り、
友達はそれを理解せずに、反対してばかりで腹が立つのだとまくしたてた。
彼女にとっては、自分と彼を引き離そうとする人はみんな敵なのだ。

八月の太陽が、私を楽観的にしていたのだろう。きっと彼女の気持ちもそのうち落ち着くだろうと、私は思っていた。

それにしても、こんなにも洗練されたように見える女性が、半年も先のバレンタインデーにもう一度告白するとか、その決着がホワイトデーだと決めるなんて、なんだか幼稚だなあとか、イベントの力ってすごいなあと、変な感心をしながら。

2に続きます。
好きだけど結婚できない、不倫恋愛の乗り越え方 2 カウンセラーなら私を助けてよ

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